働き方インタビュー

INTERVIEW 02

役員を含めて全社員が
現役の鉄鋼営業パーソン

社員一人ひとりが自律的に動く「個人商店」の集まり

1897年(明治30年)に大野鐵店として創業し、100年以上にわたって東京の鉄商の歴史をつくってきた大野興業は、1999年に改組して新たな「大野興業」として再スタートを切りました。私は1988年(昭和63年)4月に、前身の大野興業に新卒で入社し、2年ほど他社に勤務したのち、改組のタイミングで現在の大野興業に戻りました。社会人生活のほとんど、実に30年あまりを大野興業で過ごしていることになります。大野興業は、一般鋼材・特殊鋼・非鉄金属製品、樹脂製品と幅広い素材・製品を取り扱っていますが、私は一般鋼材、とくに薄板全般をメインで担当してきました。まさに“鉄一筋”の人生です。

「取締役」という役職こそあれ、当社では誰もが「一営業パーソン」。営業事務の社員を除いて、役員を含むすべての社員が、顧客企業を持つ営業職の役割を担っています。私も、大野興業のメインのお客さまである東京濾器さんをはじめ、10数社を担当する営業パーソンです。商談はもちろんのこと、伝票を打ったり、契約書を郵送したりと、担当するお客さまに関わることは1から10まで何でも自分でやるのが、当社の基本スタイル。大野興業は、大きな裁量が与えられた社員一人ひとりが自律的に動く「個人商店」の集まりなのです。

材料をどこから・いくらで仕入れて、出来上がった製品をいくらで売るのか。その判断は、経験の多寡を問わず各担当者に一任されています。約30年前、新入社員として入社した当時は「ここまで任されるのか」と驚いたのを覚えています。商いの基本ではありますが、担当者にこれらの決定権がなく、自分が担当している製品の仕入れ値や利益がわからない同業者も多いと聞きます。その点、大野興業では、自分の仕事がどれだけの利益を生み出しているのかが“ガラス張り”の状態。緊張感があり、責任も重いですが、その分やりがいもあります。商売の面白さを体感したい人、商人として身を立てていきたい人にとっては、これ以上ない環境と言えるかもしれません。

鉄鋼業界における圧倒的な信頼と経験が財産

お客さまは、大野興業と長くお付き合いくださっている企業がほとんど。創業時から継続してお取引しているお客さまもいらっしゃいます。お客さまが当社に価値を感じてくださっているとすれば、それは鉄鋼業界で長年にわたって培ってきた経験とネットワークだと思います。旧・大野興業は官営八幡製鐵時代から100年もの間、大手メーカーを取引先とする一次商社として鉄鋼流通の上流過程を支えてきました。改組後は二次商社として、よりお客さまに近い立ち位置で鉄鋼ビジネスに携わっています。この両方の経験によって、鉄鋼業界全体を隅々まで熟知し、業界内のあらゆるプレイヤーとのネットワークを構築することができたのです。

一次商社の時代が長かったこともあり、現在もメーカーと直接話ができる関係が続いているのは、大きな強みだと思います。また、メーカーから仕入れた素材が、最終的に何に使われているのか把握していることも、当社の特徴のひとつと言えるかもしれません。これは、お客さまの先にいる、より下流工程を担う企業ともネットワークを築いているからこそ得られる情報です。上流から下流まで、鉄鋼流通の全体像を把握し、各協力会社の状況を理解した上で、お客さまの要望を叶えるべく尽力する。広く深いネットワークと信頼関係、そして鉄に関する豊富な知識と業界経験を武器に、お客さまにとって頼りになる“世話役” であり続けたいと思っています。当社のように小規模な商社は、取り扱う製品そのもので差別化するのは難しいですから、この信頼関係こそが生命線と言っても過言ではありません。

お客さまのために、文字通り「何でもやる」のが大野興業

営業担当者の重要な業務のひとつにリピート品の受注・納品がありますが、迅速な納品のためには、加工工場との信頼関係が欠かせません。当社は、加工工場にお客さまの製品を一定量保管しておいてもらうことで、注文から納品までのリードタイムの大幅な短縮を実現しています。協力会社と良好な関係を築くため、私は若い頃から「現場」を重視する姿勢を大切にしてきました。若手の頃のエピソードですが、とある加工工場に卸した製品に不具合があると、クレームの電話が入ったんです。普通だったら事務所に謝罪に行くところかもしれませんが、私は先に加工工場に向かい、現場の職人の方々にお詫びしに行ったのです。製品の不備によって実際に迷惑をおかけした方に、まずは謝るべきと考えたのです。すると「スーツでバッチリ決めた、いけ好かない若造だと思っていたけれど、珍しいやつもいるもんだなあ」と謝罪を受け入れてくださり、これをきっかけに信頼を置いてもらえるようになりました。ちょっとした困りごとやトラブルの際にも事務所を介さず現場から直接連絡がくるようになり、それはそれで大変なのですが(笑)、ありがたいことだなと思っています。

当社がお客さまの“世話役”として果たす役割は、素材・製品の流通機能にとどまりません。お客さまのために、文字通り「何でもやる」のが大野興業。直近の例で言えば、東京濾器さんの生産拠点移管プロジェクトのサポートが挙げられます。長年にわたって東京濾器さんの仕事を請けてきた工場から、新たに契約した別の工場へと生産機能を移すプロジェクトで、移管を滞りなく遂行し、新たな生産拠点を問題なく稼働させるのがミッションでした。材料の検査や、加工済み製品の強度チェックなど、メーカーと連携しながら様々なサポートを行いました。

「大野興業なら、どうにかしてくれる」――そう思って、何事も最初に相談していただける存在でありたい。そのために日頃から心がけているのは、「NOと言わないこと」です。どんなことでも一旦受け止めて、どうすれば実現できるか考え、応えていく。その積み重ねによってしか、お客さまとの信頼関係は生まれません。そういう意味では、私にとっては日々の業務一つひとつが「重要プロジェクト」の連続と言えます。今後も、一歩深く踏み込んでお客さまや取引先の懐に入り、替えがきかないビジネスパートナーとして価値を発揮し続けたいですね。

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